「3」と「2」と「室内楽」

  (*)以下の一文は、以前のコメント”「3」と「2」/弦楽器の場合”、を焼き直したものです。

 かっての太平洋戦争末期の話になるが、当時無敵とされた日本海軍の戦闘機「零戦」に悩まされた米軍は、格闘戦に強い「零戦」に正面から立ち向かうことを避け、2機編隊で対抗することとし、やっと劣勢を挽回することを得たという。
 2機編隊は攻撃に強いとされているのである。これが3機編隊となると、反対に防御に強いとされ、爆撃機は3機を基本に編隊を組み、襲いかかる敵戦闘機に備えたという。


「2」と「3」の原理を企業組織の問題に応用してみると、ここでも面白い効果があるように思われる。前例がなく、普通の企業人のセンスでは達成不可能と思われるような斬新な企画/製品を生み出すためには「二人組」に担当させると成果が上がることが多く、他方、あらゆる危険性を予め予測して、どこから見ても隙のない企画を固めるには「三人組」がよい、とされているようである。
 一方で、「五人組」が良いとする説もある。人間の指は5本あるが、人体の限りある体力と神経組織を駆使して成果を上げるためには、指が5本であることが最も効果的で、体力消耗も少ないと考えられているのである。
 組織を考えるには、一つの「係」や「課」は、「5」を基本としたほうが良いらしく。また現実にも5を基本とする「係」や「課」があることは珍しくない。


 クラシックの室内楽ではどう考えられているのか。
 よく見かける小アンサンブルでは、ファースト・ヴァイオリンが二人の場合、演奏のすべての面-----テンポ、リズム、ハーモニー、表情作り、等の局面で、二人が名手であればあるほど(攻撃的と見られるほどに自己主張が強い場合は)出てくる音に問題が伴うようである。
 名手であるから、まるで一人で弾いているかのような名技を発揮することについては全く問題はなかろうが、困るのは、往々にして互いの音がブツかりあうことでである。
 これは極めて微妙な問題だが、アンサンブル全員が名手揃いの場合、二人のヴァイオリンのうちのどちらに音を合わせたらよいのか、判断に迷うこととなり、全体のハーモニーや表情に微細な影響を及ぼすこととなる。(指揮者がそこまで注意/是正を行うことはまずないだろう。また、腕に自信とプライドを持つ二人の奏者が譲り合うといった場面は、現実的には難しいことになる)。 


 評論家・鈴木敦史氏は、演奏芸術の極地とされる弦楽四重奏について「音がブツかりあう」(融和しない)ことを問題とされた。批評のなかには「音がブツかりあう」ことを個性の発揮と勘違いしているものもあるようである。
 その原因の一端はこの二つのヴァイオリンの存在にあるのかもしれない。二つの同質のものは、互いを排除するものなのだ。
 私の知る限り、こうした問題提起を耳にしたのは初めてである。弦楽四重奏につての評論の多くは、演奏曲目、演奏者、使用楽器、同じ曲目演奏(CD)についての印象比較、等であり、演奏の生命である「音」の性質についてまで立ち入って論じたたものは皆無であったと言ってよい。


 名手二人でのヴァイオリンの問題をどう回避するか。
 一つの方法は三人にすることである。こうすると音が中和されて、それほどの違和感はなくなる(かもしれない)。
 弦楽器というのは不思議な楽器で、独奏に妙味を発揮するが同類二人では反発しあい、三人以上となると玄妙な和音を齎す。
 下手な素人オーケストラでも何となくサマになるのはこのお陰で、弦楽器は人類の偉大な発明と言われる所以である(と私は考える)。
 弦楽四重奏は「音がブツかる」難点があるとされ、これは容易には克服され難い問題なのだが、数多いプロの弦楽四重奏団のなかでも唯一例外と思われるのは、かってのイタリア弦楽四重奏団である。
 四人の技術が優れているのは当然のことながら、そのハーモニーの美しさは比類がない。  
 ファースト・ヴァイオリン奏者の死去に伴い、この楽団は解散したが、このファースト・ヴァイオリン奏者の名を冠した弦楽四重奏コンクールがイタリアで開催されているという。
 こうした例は、かって耳にしたことがない。


<権兵衛の一言>
 合奏という局面では楽器の問題とともに、演奏者の相性という厄介な問題がある。
 プロは職業柄、これを克服してしまうが、趣味/楽しさ優先のアマチュアとなると-------?
 しかし、アマチュアには、音の不整合など問題にしない特権?があるのが特徴だ。天の配剤といえようか。
 二つのヴァイオリンの音がブツかりあうほどにうまく弾けたら、どんなに素晴しいことだろうか。
 なお、合奏には、三人の個性がブツかり合い、かつそこに独特の魅力が生まれる「トリオ」(ピアノトリオ等)の世界があるころを申し添えておこう。

甦る零戦 国産戦闘機vs.F22の攻防

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