雑感/名文、ツイッター、ヒトデ、ジョブス
◇「文章がうまくなるコピーライターの読書術」 (鈴木康之)を読んでいたら、流石言葉の芸術家と言われるだけに、コピーライターが日頃如何に文章作りに腐心しているか、その一端を物語るエピソードが多く書かれていて、とても興味深かった。
しかし、興味は持てても実際に真似出来るかというと、そうはいかないということも、また興味深い(何故か、を考える意味で)ことではある。
その一例;
文章とは、例えば「調べ」のようなものである。
文章を書く道筋(ロジック)を立てたら、「調べ」は出てこなくなるものなのだという。しかし、その相反する二つのものをギュッと一つに纏めたのが名文なのでああると。
結局、名文というものは、なにか論理に反するものを、論理と一緒にギュッと持っているものだ、そうだ。
名文家とは、ギュッと一体にして出せる人ということになる。
何か分かったような分からないような気分である。
しかし、そう言われてみると、我々が名文に接した時に味わう気持----- 普段モヤモヤと何かを感じていながら、それを的確に表現出来ないもどかしさ(甘く考えれば、多分論理?が邪魔をしているのだろう)、それをものの見事に名文で手品のように表現してあますところのない鮮やかさ、そしてその名文をある種のコンプレックを感じながら、感嘆しつつ読まざるを得ない自分のふがいなさ、更にそういう名文に出会えた自分の運の良さ。
だから、学者のエッセイは理屈ばかりが先行して面白くないのか。しかし、学者でも寺田寅彦の文章はなせ面白いのか----- 「文章がうまくなるコピーライターの読書術」は、そういうことを考えさせてくれた本であった。
もう一つ、読書法についてのノウハウがあった。
いい文章に出会ったら、その頁の」下の角を折る。角が多くなるほど、その本の満足度が多いということになる。更に良いことは、その本を書棚に入れた時、下の部分が膨らんでいて、取り出し易いというのである。
この着眼点は立派だ。
◇ ツイッター
ツイッターでもブログでも、いくら書いても世間から注目されないという不満はよく聞かれる。
内容のな書きなぐりや独り言のようなものには、忙しい現代人は見向きをしない、というのは良く分るが、力を込めて書いたもの、鋭い視点を秘めて鋭意認めた(筈の)力作が見向きをされないとなると、これは些か面白くもない気分になってしまうのだろう。
あるレストランの店主の述懐。
彼は御店のPRという観点から熱心にツイッターに取り組んだ。ところが反応がない。しかたなく彼はそれでも細々と、今度は「PR」とはあまり関係のない自分の趣味や生活上の雑感などを綴り始めたというのだ。
すると、今度は反響(フォロー?)があり、意外にも御店の常連客が増え始めたというのである。
これは、商売も交流も、人と人との繋がりが基本となっていることを示すもの、と識者は解説しているが、その通りなのであろう。
私は以前から萬年筆の同人誌の会員となっているが、萬年筆やインクを蒐集したり、その書き味に凝るといった趣味ではなく、あくまでこのパソコン/ケータイの時代に、アナログの象徴ともいえる「手書き」に執着したいという気持があるからである(機械万能の世に中で、あくまで身体で弾く楽器の世界もそうである)。但し、内容は不問。
その同人誌も 50号を迎えた。凄い’(感動的な)ことではないか。
この繋がりのお陰で、会員である萬年筆商の方のお仕事も好調であるという。
◇ ヒトデの防衛力?
「美の幾何学」(伏見康治、安野光雅、中村義作)という本がある。有名教授や高名画家の、「シンメトリー」「黄金分割」「文様」やエッシャーの不思議絵などについての楽しい鼎談。といっても素人には難しいのだが、「何か面白いような」気(錯覚)がする本。
僅かに印象に残ったもの;
● ヒトデの五角形は割れにくい。つまり防衛力がある?
● 良い問題とは、良い設問に対応するものである。
良い設問から出発しなければ良い問題とはないらない。従って、人を唸らせるような応答は引き出せない。
インタビューに際して最も必要な心得であろう。
著名な人にアナウンサーが「貴方に取って◯◯ とは何ですが」と、まるで何も準備してこなかったような質問を簡単にぶつけることがあるが、これでは著名人が迷惑。ありきたりの応えしか出てこないだろう。
アップルの大立て者として(大成功者として、あるいは大失敗者として)有名な S.ジョブス の言葉。
----- (五十歳になると)先のことを考えるようになる。でも、だからといって気が長くなるわけでもない。どう質問したらいいのかが分るようになるのだ。
<権兵衛の一言>
ジョブスの言葉。
この地上で過せる時間には限りがある。本当に大事なことを、本当に一生懸命にできる機会は、二つか三つくらいしかない。
本当に「二つか三つくらいしかない」のだろうか。
もっともっと一杯あったような気がする。
しかし「本当に大事なこと」、「本当に一生懸命に」という条件を付けてみると、一つもなかった------ ということになりはしまいか。
文章がうまくなるコピーライターの読書術(日経ビジネス人文庫 ブルー す 4-2)
- 作者: 鈴木康之
- 出版社/メーカー: 日本経済新聞出版社
- 発売日: 2010/05/07
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