秋深し(4)忠臣蔵


◇◇ 視聴覚教材(7)各様の忠臣蔵
 そろそろ忠臣蔵のシーズン。従来型?の忠臣蔵に加えて新手の解釈を施した忠臣蔵が次々とお目見えして楽しいことだ。
 従来型というのは、所謂仮名手本忠臣蔵版というのか、江戸市中等の劇場で上演され、勧善懲悪調で庶民の喝采を博したとされるもの。
 忠臣蔵の真相は今もって不明な点が多いとされているが、この劇場版は一定の政治的な配慮をふまえて構成されたものとされている向きがある。
 それというのも、忠臣蔵最新版「謎手本忠臣蔵」(加藤廣)によれば、討ち入り成就後、将軍の重臣柳沢吉保は、朝廷と幕府間の問題に世間の関心が及ぶことを危惧し、「忠孝、親子愛、夫婦愛、朋友愛、赤穂浪人の艱難辛苦」等、町人たちの涙を誘う話題を集中して世間に広めよ、と腹心に命じている。一種の情報戦、世論操作である。
 この小説は、佐藤優氏によれば、著者との対談で「一種の情報小説」とされている。


 佐藤氏とは、外務省のラスプーチンと言われたほどの人物。この呼称がいささか大袈裟というのならば、ラスプーチンは上記の柳沢吉保を擬する、としてもよい。
 佐藤氏の経歴は、多く見られる官立大学法学部出身というのとは些か異なっていて、同志社大学で神学、宗教学を専攻したとされる。この点では普通の外務官僚とはものの見方を異にしているとみられてもよい。
 事実、そのあたりの基本的知識に不足していた共産党幹部たちから重宝される存在となり、自然に(諜報面での)人脈も有利に築かれたのらしい。


 さよう、「謎手本忠臣蔵」は幕政を陰陽面で縦横に操った柳沢吉保大石内蔵助との熾烈な情報戦を描いた小説とされている点で、従来型忠臣蔵と類を異にするとされているのである。
 開巻早々、柳沢吉保が赤穂産の塩と市販の塩を客人に
喫させて、その反応を見る、というところがある。この赤穂塩製法の秘密を探ることも柳沢情報戦の一つの柱となっている。


 勧善懲悪型の劇場版忠臣蔵のほかに目につくものとしては、「謎手本忠臣蔵」のほかに次のようなものがある。
● 瑶泉院(浅野内匠頭夫人)を討ち入り計画の主謀者
とするもの。
● 上杉藩配下の謀臣 千坂兵部を対大石内蔵助の情報戦の主役とするもの。(「四十七人の刺客池宮彰一郎)。
● 討ち入りに参加しなかった赤穂浪士のその後を追うもの。
藤沢周平の小説中で、赤穂浪士が蔭の主役として活躍するもの。


 この年末のテレビに、どのような装いで忠臣蔵が登場するのか、私には紅白以上に興味が持たれることである。
 加藤氏との対談で、氏は示唆するところの多い発言をされている。例えば;
◇ 吉良には、現在の霞ヶ関官僚に似た面がある。
◇ 日本の諜報活動は、西欧に先んじて、特に朝廷において効果的に行われていた。
◇ 小説「謎手本忠臣蔵」は、日本文化の一典型として、英訳のうえ海外に発信さるべきである。
 一つには、日本人の情報能力の高さを示すものとして、他の面では、日本の文化(政治、経済、社会等)は、朝廷と時の政治権力とのバランスの上に築かれてきた(外国では理解が及びにくい)という点で。
 こうした理解が進まないと、忠臣蔵は単なる集団リンチ事件として片付けられてしまう。
 日本人作曲家によるオペラ「忠臣蔵」があるが、どのような評価がされているのであろうか。
柳沢吉保は、モサド長官(イスラエル)のハレヴィ氏を連想させる。


<権兵衛の一言>
 私(ミーハー)はどの型を好むかといえば、それはもう「従来型」である。すなわち、浅野が吉良のいじめによって逆上、松の廊下において刃傷沙汰に及び、即日切腹。悲憤した大石以下の浪士が艱難辛苦の末、吉良邸に討ち入って、目出度く本懐を遂げる------ というお涙頂戴もの。
 しかし、これは確かに外国人には説明困難かもしれない。私はニューヨークで「従来型」忠臣蔵映画(英語版)を見たが、観衆は討ち入り場面で興奮したりはするが(西部劇なみ?)、浪士の悲しい情死事件では「失笑」が漏れるなど、私には理解不能な面があった。 
 

謎手本忠臣蔵 上

謎手本忠臣蔵 上