音楽閑話(4)/ピチカート----- 内側の楽しみ

 弦楽器は弓を用いて音を出すのが普通だが、時に、三味線のように弦を弾いて音を出す(ピチカート)ことがある。
 これがピタリと決まると、実に効果的で、そこを心得た作曲家の作品には嫌でも心を動かされてしまう。
 しかし、当然ながら、音程が良いというのが最大の決め手。ここぞというところで変な音を出されたら目(耳)も当てられない。

 大抵の場合、ピチカートは音がゆったりと流れている時に最大の効果を発揮する。(だから、下手な奏者でも勤まる-----と いう具合にはいかないのが残念)。
 私が音楽の桃源郷と思われるくらいに気に入っているピチカート音楽の例を申し上げてみよう(順不同)。
 オーケストラや弦楽合奏の内側/渦中?にいて、至福の時を感じる瞬間である。

◇ 弦楽五重奏曲K516 第4楽章/チェロ/モーツアルト
 神韻渺々、永遠に続いて欲しい、という感じで、モーツアルトの天才に無条件で脱帽してしまいたくなる。
クラリネット五重奏曲第1楽章/チェロ/モーツアルト
 ピチカートの前奏に乗ってヴァイオリンが歌い出すところ。実に楽しい。どうしても音楽の神様が乗り移っているとしか思えない。
弦楽四重奏曲「アンダンテ カンタービレ」/チェロ/チャイコフスキー
 同じくピチカートの前奏に乗ってヴァイオリンが歌い出すところ。長く緊張感が続くので、ドーピングでも欲しいところ(冗談)。
交響曲「悲愴」第1楽章コーダ/全弦楽器/チャイコフスキー
 激しい苦闘、軋轢、艱難辛苦がようやく終り、穏やかな癒しの時が訪れる。ピチカートは、実に単純な音型の繰り返しだが、感銘の深さは表現し難い。
交響曲「未完成」第2楽章/チェロ/シューベルト
 「我が恋の終らざるごとく------」の哀感をたたえた秀逸のピチカート。
 私は第2楽章のほうが好きだ。往年の名画「未完成交響楽」が懐かしい。
弦楽四重奏曲ノクターン」/チェロ/ボロデイン。
 希代のメロデイ作曲家ボロデインの名品。ピチカートに乗って、二つのヴァイオリンが美しく競演する。
 ここのピチカートは、チェロが弾けて、その能力を充分に心得ていたボロデインの才能を存分に発揮したもので、 ピチカートだけ弾いても楽しめて、かつ、指の訓練にもなる。(もちろん、正確な音程で豊な音を出すのは難しい)。
 このピチカートを聞いていると、用いられている楽器が凡器か名器かが、分かるような気がする。


 はかにも名曲は多々あるが、音楽の楽しさは、意外なところにも隠されているものだという思いがする。

<権兵衛の一言> 
 天才は、見えにくい部分にも惜しまず才能を注ぎ込むところが、天才たる所以なのだろう。

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