テレビ「お散歩」番組

 
 旅人と称するレポーターが、都内各所あるいは近郊沿線を散歩して、そこで出会う風物や地域の人たちを紹介する番組がある。
 多くは東京が中心となっていて、地方が殆ど無視されているようなのが残念といえば残念。東京一極集中、と目くじら立てるほどのことはないのかもしれなうが。
 それにしても、都会の都心ではなくて、近郊などに目を向けるのなら、いっそ地方の(いわゆる見慣れた観光名所ではない)隠れた風物詩を紹介してくれてもよさそうなのに----- と私は思ってしまう。


 こうした番組は各テレビ局にあるが、折角の散歩道が、例えば銀座であって、しかも、高級料理店巡りなどがメインとなってくると、少し興醒めした感じになってくるのは仕方がない。カロリー制限を受けている身として、おのずから食い気に繋がるものから無理して目を逸らしてしまう習性が身についているからかもしれないが(本当は経済的な理由と都心へ出かけてゆく億劫さもあるのだが)。


 私が好きなものは、好んで下町や狭くくすんだ路地などを選んで散歩する「ちい散歩」番組。
 そこで行き会うオデンとか駄菓子など、エプロン姿の地域の人たちと立ち食いする光景など、なかなか悪くない感じである。地元の小料理屋に立ち寄ったりもするが、手工芸に打ち込む昔風の職人さんとの飾らない会話もいい。
 ものを食べる時、レポーターが精一杯の演技をして「うまい!」「おいしい!」と感嘆してみせる姿、あれも「ちい散歩」では、ごく自然で気張らないのがよい。


 時々印象に残るのは、地下鉄駅から外に出た時、そこに広がる光景が広いアスファルト道路であったり、遠景までも高層ビルが連なっている風景である。しかも、決まって人通りが少ない。空っ風が吹いていたり、犬がトボトボと歩いていたりすると、楽しい散歩ではなくて、「都会の孤独」といったような感じを受けてしまう。
 阿久悠氏は「清らかな厭世」のなかで、「(高層ビルは)きらびやかなガラスの塔であるが、時に不吉な墓標に見えたりする」と嘆いている。


 何故人通りが少ないのかと感じるのは、愚問であるのかもしれない。それは多分、日頃から多くの人が群がった雑踏場面だとかテロの現場とかを、ニュースで嫌になるほど刷り込まれているからであろう。
 また、人通りが少ないのを淋しいと感じるのは、そこに犯罪の臭いが重なってくるからかもしれない。その証拠に、歓声をあげて遊び回る子供たちの姿が殆ど見られない。
 昔らな、閑静だとか、長閑だとか、ひなびたなどと言われた筈のものであるのに。
<権兵衛の一言>
 散歩の良さを味わうには、こちらから出かけていかなくてはならないが、時に向うから近づいてきてくれることがある。それは、夏場の盆踊り大会であったり、近くの商店街で開かれる縁日であったり、地域のお祭りで練り歩く御神輿であったり-------。