男料理は「餌」か?

 私の友人(還暦年代)は、3年前に妻を亡くし、以来一人暮らし。当然、食事は自分で作る。ある時、参考用にそのノウハウをメモにして貰った。 ご飯、みそ汁はほぼ定石通りだが、副食は魚の干物を多く買って来て、一匹ずつラップで包んで冷凍し、食事ごとに一匹ず焼いて食するのだとか。野菜はキャベツなどを手でちぎってドレッシング。昼食は専ら麺類、そして夜は概ね朝食メニュのコピー。
 これに冷凍食品や外食が加わり、大体がこの繰り返しだという。3年経過して流石に「少し疲れた」というが、この友人は音楽合奏を趣味としており、料理の時間に多くは割けないので、男の一人暮らしとしてはこんなところでマアいいのかもしれない。また、疲れたといっても食事作りを止めるわけにもいかない。


 ただ知人は、やや自嘲気味に「俺の料理は餌だ」というが、そう卑下していいものでもあるまい。
 餌であれ食事であれグルメであれ正餐であれミシュラン三つ星級であれ、人の世話にならずに自分をそこそこに自給自足することが出来れば、それなりに立派なものなのだ。
 友人には私の指南書「男子厨房学入門」(玉村豊男)を贈呈させてもらった。この本は所謂贅沢なレシピ本ではなく、有り合わせの食材から最小限の器材を用いて料理を賄う、という極めて創造的かつオジサン向きの教養書である。そして自分の才覚次第で、いくらでも応用の道を開拓出来る良書である(と期待したい)。
 この「応用が利く」という点をなお「面倒だ」と感じる物臭男もいるだろうが、最低限生存していけるくらいの料理道は教えて貰えることになっている(と期待したい)。


 メモに「冷凍食品や外食が加わり」とあるので、男料理と外食に多少の縁のある私も、自分が利用する私鉄駅近辺の外食店を探訪してみた。
 蕎麦、中華もの、韓国もの、カレー各種、大衆レストラン、マクドナルド、お好み焼き、軽食付き喫茶店、スナック、イタリアもの、牛丼、天丼などなど。
 確認出来たのは、大体500円以下は庶民向き定番味付けでだが、残念ながらそう続けて通えるものではない。 しかし、中華は店の造作はパッとしてなくても美味しい場合がある。蕎麦にも新種があって、店構え/造作は立派で店員の衣装もしっかりしてはいるがセルフサービス(ここまできたのか!)。マクドナルドは簡便だが、持ち帰り品は自宅で暖めても魅力に欠ける。やはり出来たての温かいものを店で賞味するのがよい。


 「餌」以上のもの、つまり、店に風格があり、照明にも工夫があり、給仕する人が美人、かつ食事の盛りつけ、什器類が洗練されている場合は、スープ、コーヒー、サラダ等が付いて値段も1,000円以上となるのは当然かもしれない。(吉兆の昼食に数万円のものがあると聞いた)。
 ただし、味付けとなると、「餌」程度のものを複数ただ綺麗に盛りつけただけのもあるから要注意だ。


 こうした店で質量相伴うのは、志のある夫婦が経営している小さな洋風レストラン、それから昔風の蕎麦屋である場合がある。後者の場合、店のインテリア、分厚い材木を用いた食卓、椅子類など、流石に老舗の風貌が争えないが、しかし、お値段も安くない。
 天丼チエーン店で特筆すべきものが一軒あり、そこでは白木作りの室内、食卓、店員の制服などが心地よく、海老、穴子、いか、かぼちゃなどの揚げたての天ぷら付きの(当たり前)天丼が特価500円也で給される。(私は素人だが「揚げ具合」も悪くないようだ)。


 いま冷凍食品の「中毒事件」報道で、コンビニ等での食材選びが窮屈になっているが、これらのなかには安いくて美味しいものに「巡り会える」ことがある。
 しかし、その調理(味付け)が難しいものもあり、やはり、料理には経験(食べ歩き)が必要と感じさせられることが少なくない。
 しかし、私など調味料が2種類(例えば、塩、砂糖)以上になると混乱して手が出ないことが多く、文字通り「餌」以上のものが作れるのは何時のことになるのか見当もつかない。
 しかし、テレビで見たのだが、スキヤキ用食材を炊飯器に入れてコーラをかけ、20分して醤油で味を整えると立派なスキヤキ料理に仕上がる、という頗る男子向きの料理法を拝見した。
 なかなか奥の深いものがあるものだ。


<権兵衛の一言>
 飼い犬(男子)の餌作りは私の主人の仕事だが、通常のドッグフードだけでは駄目で、それに何かを付け合わせてくれないと悪いが受付けられない。
 大体、肉+醤油のシャブシャブ、豚/鶏レバー、茹卵の黄身、クッキーやチーズ、等を日替わりメニューで与えられて、ホッと一安心---------という状況の日々である。