「3」と「2」/弦楽器の場合

 先に「3」と「2」がかかわる例として、飛行機編隊と企業組織の問題を擧げてみたが、今回は ヴァイオリンの例。但し、私の個人的意見なので一般性はない(と思っている)。

◇ よく見かける小アンサンブルで、ファースト・ヴァイオリンが二人の場合。ファースト・ヴァイオリンは、演奏のすべての面-----テンポ、リズム、ハーモニー、表情作り、等の面で、全体を牽引しなければならない重責を担っている。

 ところが、二人のヴァイオリンがいる場合、二人が名手であればあるほど出てくる音に問題が伴うのである。
 名手であるから、まるで一人で弾いているかのような名技を発揮することについては全く問題はないが、困るのは、往々にして互いの音がブツかりあうのである。
 これは極めて微妙な問題だが、アンサンブルが名手揃いの場合、どちらに音を合わせたらよいのか、判断に迷うこととなり、全体のハーモニーにも微細な影響を及ぼすこととなる。(指揮者がそこまで注意/是正を行うことはまずない。また、腕に自信とプライドを持つ二人の奏者が譲り合うといった場面は、現実的には難しいことだろう)。

 評論家・鈴木敦史氏は、演奏芸術の極地とされる弦楽四重奏について「音がブツかりあう」ことを問題とされた。その原因の一端は二つのヴァイオリンの存在にあるのかもしれない。
(私は素人だが、弦楽四重奏の死命を制するのは、セカンド・ヴァイオリンである、と思っている)。

 私の知る限り、こうした問題提起をされたのは初めてである。弦楽四重奏につての評論の多くは、演奏曲目、演奏者、使用楽器、同じ曲目についての印象比較、等であり、演奏の生命である「音」についてまで立ち入ったものは皆無であったと言ってよい。

 これは少数意見というよりは希有の問題提起であり、楽界で問題にされたという話も聞かない。(無視されたということでもあろうか。弦が弾きこなせる評論家は少ないという話だ)。

 小アンサンブルの問題に戻るが、名手二人のヴァイオリンでの問題をどう回避するか。
 一つの方法は三人にすることである。こうすると音が中和されて、それほどの違和感はなくなる。
 弦楽器というのは不思議な楽器で、独奏に妙味を発揮するが同類二人では反発しあい、三人以上となると玄妙な融和音を齎す。
 下手なオーケストラでも何となくサマになるのはこのお陰で、弦楽器は人類の偉大な発明と言われる所以である。

 弦楽四重奏は「音がブツかる」とされ、私の経験でもこれは容易には克服され難い問題なのだが、数多いプロ弦楽四重奏団のなかでも唯一例外と思われるのは、かってのイタリア弦楽四重奏団である。
 四人の技術が優れているのは当然のことながら、そのハーモニーの美しさは類がない。

 ファースト・ヴァイオリン奏者の死去に伴い、この楽団は解散したが、このファースト・ヴァイオリン奏者の名を冠した弦楽四重奏コンクールがイタリアで開催されているという。
 こうした例は、かって耳にしたことがない。

◇ さきほど三人のヴァイオリンは音を中和する、と述べたが、一つのヴァイオリンにヴィオラまたはチェロを加えた場合には、また違った雰囲気が生まれる。
 モーツアルトはヴァイオリンとヴィオラ合奏のために、比類のない名曲を残した。弾いてみたくてたまらない、しかし、難しくて歯が立たないということでは、素人には迷惑な存在ではあるのだが。

 ヴァイオリン+チェロは、音域が開き過ぎるなどの点で扱い難い面があるが、これにピアノが加わると、異種楽器三人が、合奏の妙味を発揮出来るピアノトリオの世界に導枯れる。

 ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロの弦楽三重奏には、モーツアルトの絶品が用意されていて、これまた素人には迷惑な話なのだが、これにピアノが加わると、ピアノ四重奏という素人でも」何とか手が出せる世界となる。(ピアノ四重奏にもう一つヴィオリンが入るとピアノ五重奏となるが、合奏としてはやや重たくなる)。

<権兵衛の一言>
 合奏という局面では楽器の問題とともに、人間の相性という厄介な問題がある。
 プロは職業柄、これを克服してしまうが、趣味/楽しさ優先のアマチュアとなると-------?
 しかし、アマチュアには、音の不整合など問題にしない特権?があるのが特徴だ。天の配剤といえよう。